2014/01/12

池上俊一先生の「パスタでたどるイタリア史」-最近読んだ料理本その1

最近、興味深い料理関係の本や雑誌を読む機会が続いたので、その紹介記事を何本か上げたいとおもいます。その1。

岩波ジュニア新書は、なかなかに興味深い内容について、いろんな大御所が書き下ろしていて、図書館でもそのコーナーはよく覗きます。その時は、タイトル3分、著者7分位で書架を眺めるのですが、そこでこの著者名を発見してしまいました。


池上俊一先生。西洋中世史がご専門の東大教授。著書を何冊か読んだだけでなく、学生の時には一般教養の西洋中世史の授業を、それはそれは興味深く受講しました。かつて朝日新聞の書評委員だった時のキレも最高でした。


その先生による「パスタでたどるイタリア史」。結論をいえば、とても面白い「イタリア史」の本でした。パスタがイタリアの国民食として成立していく過程を骨に、イタリア史の本論がガッツリと肉付けされています。一般の人にもお勧めできる本ですが、池上先生フリークには、中世史の本で見かけがちな 、例のおどろおどろしい挿絵やカタカナの固有名詞もちりばめられていて、相変わらず楽しめます。

 

概要はリンク先の目次をご覧いただくとして、この本の中でも、特に興味深く読んだのが「貧者の夢とエリートの洗練」と題した第3章。

イタリアって、食文化はもちろん芸術や商工業など、素晴らしい文化を誇り、気持ちもそうした文化の華に引かれがちです。でも、この本のイタリア史は一貫して、農民、庶民、母親、女性、地方といった民衆寄りの立場から描かれていると感じます。主題のパスタが、「民衆から広まり、民衆の憧れの食べ物」だったように。

これまで何度かこのブログで書いたように、自分が海外旅行に出かけて行く場所といえば、築地(食市場)とユザワヤ(布地市)と合羽橋(調理器具)。遺跡や寺院/教会系を訪れるもの大好きですが、やはり一番好きなのは、地元の人たちの生活の現場の空気を感じること。



だから、読後、気になった料理といえば、「野菜食い」な時代の農民が食べていた「ミネストラ(野菜や豆の入ったスープ)」や、いつも空腹なナポリの民衆の代弁者たる道化、プルチネッラが夢見た肉団子の入りの「マッケローニ」。旅先で、地元のおっさんが黙々とメシを食っているような食堂に飛び込むのが大好きなので、民衆のパスタを求める原点な食べ物に強く引かれました。
 
そのほかにも、「地方の名物パスタと国家形成」の4章や、マンマの味の背景を詳述した5章など、どの章もパスタを取っかかりにイタリア史の裏表を深掘りするだけでなく、最後はアメリカ移民を通じて世界史レベルまで話が広がるこの一冊。

続編で「お菓子でたどるフランス史」も出ているようなので、こちらも一刻も早く手に取らねば、です。

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