2012/12/31

宇野重吉系なそば

大晦日ってことで、お蕎麦系のエッセイなエントリです。

地元・越前のそばといえば、なんたっておろしそばです。一家言ある人も多く、自分でそば打ちする人も多いだろうし、店も個性豊かで、人それぞれに贔屓のそば屋があります。

そこで、最近の自分の好みの越前のそば(本稿は基本的にそばそのものについてのみ語ります)はというと、一つは太めの田舎そばを柔らかく茹でたもの。そして、もう一つは個人的に「宇野重吉系」とカテゴライズしているそばです。


俳優の宇野重吉氏は、越前のそばをこよなく愛したとのことで、往事は氏の愛したそば屋はたいそう人気を博していた印象です。福井のMさんとか、今庄のFさんとかが代表的なところでしょうか。麺がピラピラと薄めの食感で、大人しめな味わいは、氏が愛した店に通じるものがあります。食感そのものが柔らかいそばともども、ここ数年来、妙に美味しく感じられるようになってきたそばです。

しかし最近はというと、宇野重吉系は少し勢いがないような印象を抱きます。地元のそば好きの大勢が好むのは、挽きぐるみで色が黒く、太めで固めな噛んでガッツリ旨いそば。もしくは、そば打ち名人系(=コンクールでは審査委員が江戸そばの大御所なため、細くてシャッキリ打たねばならず、そのコンクールみたいなそばを越前スタイルで出す店もなかなかに多くなっている)でしょうか?

そして、宇野重吉系の押しの弱さは、前時代の遺物的に語られるような印象さえ受けます。そばトークしてても、その系列の店の名が出ると「ああ」とか「そういえば」的なリアクション受けたりします。

でも、個人的には宇野重吉系は、もっと楽しまれていいそばだと思います。

それは、どうしてもはっきりくっきりした味が評価されがちな越前そばワールドで、比較的繊細に味わってみたいそばの食感は貴重だと思うからです。そして、もっと重要だと思うことは、越前そばの本当の楽しさは、なんといっても振り幅の大きさ、個性の多様さにあり、往事の“こだわりな店”な仕事のそばが一つのスタンダードとして存在することは、その多様性を下支えする大事なベースだと思うからです。

地域ごとに在来種しか使わなかったり、ほとんど麺の体裁をなさない切れ切れの太い十割そばをハイミーたっぷりの汁で食べたり、越前の各地域には本当に個性的(?)な土着のそばが残っているし、それが一番うまい、って言い張れる人がたくさんいることが、越前のそばの一番の魅力だと思います。

自分が、宇野重吉系や、柔らかいそばの魅力(噛んでるとそばの甘みがしっかり感じられるのが好き)を再発見できたのも、ある山里で在来種を作り続けているおっちゃんと話した時「俺は自分が作ったそばを柔らかく茹でて、自分で作った汁で食べるのが一番」との言葉に、ピンと来るものがあったからです。

個人的に、越前のそばは好きですが、越前のそば好きには時折眉をひそめたくなることもあります。それは、ティピカルな越前おろしそばの味に固執する余り、たとえば更級系などは理解しようとしない態度が苦手だからです。そんなそば好きが「ああ、あれね」とか言いそうな宇野重吉系を改めて食べてみることで、自分の経験からすると、そばに対する蒙を啓いてくれものが何かしらある筈です。機会をみて、ぜひお試しになられることをオススメします。

*このエントリは、数年前にmixi日記で書いた内容をベースに、ほぼ全面的にリライトしたものです。

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